
作家活動はもちろん、自然環境を守るために世界中を奔走されるニコルさん。実は私たちが取材でお会いしたときも、3日後には気候変動による旱魃(かんばつ)の調査にオーストラリアへ出発されるようでした。そんなお忙しいニコルさんですが、現在書かれている本についてお聞きすると、「鹿の生態研究」というニコルさんらしいお返事がかえってきました。
「ただし、鹿肉が食用として適しているかなどについての研究は、日本の出版社はかなり消極的なのです。でも、鹿のことに関する専門書がまだ日本にはないため、今はその出版に向けて取り組んでいます。」と、瞳を輝かせながら話すニコルさん。
「実は歴史上、日本人は鹿肉を古くから食用としているのです。仏教の影響で食べなくなりましたが、鹿も牛も魚も同じ生きもの。けっして鹿だけが特別な動物ではない。鹿のなめし革なども、もともと日本の技術は世界一。印伝をはじめ、昔の武将が使っていた槍をおさめる革袋など、鹿は日本人の生活に密着した動物だったのです。」
私たちは、古くから日本人と鹿が親密な関係であったことを、ニコルさんのお話ではじめて知りました。しかも現在、その鹿が年間約10万頭(※)以上もムダに捨てられている実態があるそうです。
「鹿のフィレ肉は100g=約800円と高価なお肉ですが、あとの部位はタダ同然で捨てられます。本当にもったいない限りです。フカヒレも同じですね。サメからフカヒレだけとって、あとの部位は尿素がキツイからといって捨てられてしまう。でも、サメの肉も新鮮であれば十分食べられるのです。英国にロックサーモンというのがありますが、あれはサメの肉なのです。ドンフィッシュといえば誰も食べないですが、ロックサーモンといえばみんなが食べます。」
食用としての鹿肉に、現在の日本人は正直なところ少し抵抗を感じるかもしれません。でも、歴史的に親密な関係にあった鹿が、約10万頭(※)もムダに捨てられている今日、はたして私たちはその現実から目を背けていいものでしょうか。ニコルさんの鹿のお話をうかがいながら、私たちはもう一度先人の知恵や食文化に多くを学ぶべきなのかもしれないと、あらためて思うのでした。
※注)厚生労働省調べ