読者に「こころの種」を植える、『マザーツリー』という作品

翻訳を介さず日本語で書きました。だから日本語との格闘でした。

2007年11月、ニコルさんは「マザーツリー〜母なる樹の物語〜」(静山社)という作品を発刊されました。それは、人と自然をテーマに描かれた大人のための民話であり、またニコルさんからのたいせつなメッセージが込められた作品です。作品を読んだスタッフからは口々に感想が語られ、ニコルさんはその声に真剣に耳を傾けながら、言葉少なに何度も「うれしい」と応えてくれました。

「あの作品は、翻訳を介さず日本語で執筆しました。だから、日本語との格闘でしたね。500年という歴史の流れにそって登場人物も多いし、江戸弁やおじいさん言葉などを使っているため、マネージャー(森田さん)のサポートもとても大きな力になりました。『マザーツリー』は、僕の遺言ともいえる作品です。」

そう語るニコルさんの表情からは、この作品を書き上げた苦労のあとが少しだけ垣間見えるようでした。

「ファンレターもたくさんいただきました。小学生の女の子から95歳のおばあちゃんまで、とても幅広い方からのメッセージでした。とにかく、世代や性別を超えた方からのファンレターがすごくうれしかったですね。ただ、幅広い方からの感想でしたが、たくさんの共通する点がありました。この作品を通して、できるだけ多くの人たちへ「こころの種」がひろがれば、何よりもうれしいことです。」

そんな読者からの反響が物語るように、きっと『マザーツリー』には日本人が忘れかけていた何かを呼び覚ましてくれる力があるのではないでしょうか。それは、作品全体に脈々と流れている、世代を超えて受け継がれるDNAのようなもの。いや、日本人というより、もっと広く開かれた「人類にとってたいせつなもの」なのかもしれません。

自然の原石にあふれた日本、その多様性こそが、可能性です。

現在は、映画化の話も水面下で動いているとのこと。アニメではなく、実写版の予定で、作品の表紙画・挿画などを担当された片岡鶴太郎さんにも出演依頼をされているそうです。

「鶴太郎さんとは2年来のおつきあいになりますが、最近とくに交流が密になっている感じですね。作品の表紙画などを依頼したときも、黒姫山まで取材に訪れて、千年のミズナラの樹を見学されました。」

文中の一節に、「人は皆、山と森の子どもじゃった」という達磨岩の語りがありますが、千年のミズナラはまさにそれを象徴するかのような大樹に成長しているようです。

「日本の自然は、ほんとうに美しい。今、日本人が目覚めたら、きっと世界で一番美しい国になると思います。南北に細長い列島ですが、山にも海にも恵まれ、さまざまな自然の原石にあふれています。まさしく、その多様性こそが、日本の可能性です。」

また、誰よりも日本人としての誇りを強く抱くニコルさんは、私たちにこんなことも語ってくれました。

「僕はウェールズで生まれましたが、はじめて日本を訪れてこの国の自然の中に入ったとき、ほんとうに「ただいま!」という気持ちになったのです。日本人は、もっとご先祖様にありがたいと感謝する気持ちがなきゃダメですよ。

西欧の植民地にならなかった歴史に、もっと誇りを持つべきだと思います。すごくいい自然や文化が残っているのに、そのことを知らないし、忘れてしまっています。」

ニコルさんの「マザーツリー」という作品には、人と自然に対する愛情や敬意、そして逆にそれらを破壊しようとする者への怒りが、物語の細部にわたって記されています。文中の一節に「国と国、過去と未来、そして人間と自然も、いつかきっと調和できる時が来ると思いますよ。」という語りがあります。ニコルさんは、ご自身のライフスタイルにおいてもそうであるように、環境との共生をつねに前向きな視点でみつめられています。「Think GAIA」のブランドビジョンを掲げる私たちSANYOも、そんなニコルさんから学んだ「こころの種」を、いろんな商品を通して、人と暮らしのなかへ届けていければと思います。

次の日の午後、ニコルさんはまだ雪深い「アファンの森」へ案内してくれました。森の入口にある山小屋で写真撮影した後、ニコルさんは森の上空を旋回する鷹に向かって、「トゥールルー」とひときわ甲高い声をかけました。それは、まるで人と自然が対話しているかのような、さわやかな光景でした。

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対談:ニコルさんと下澤さん

レシピ:ニコルさんの食と文化